■ 総平均法 vs 移動平均法：何が違うのか？

暗号資産の所得（利益）を計算するには、売却した暗号資産の「取得価額」を決めなければなりません。総平均法と移動平均法は、この取得価額を算出するための2つの公式ルールです。 どちらを選ぶかによって、同じ取引をしていても、その年の所得金額が変わってくるのです。

• 総平均法：1年間の購入取引をすべて合算し、年末に一度だけ平均取得単価を計算するシンプルな方法です。 計算が年に一度で済むため、手間が少ないのが特徴です。
• 移動平均法：暗号資産を購入するたびに、その時点での保有分と合算して新しい平均取得単価を計算し直す方法です。 取引の都度、正確な原価を把握できるのが特徴です。

本質的な違いは、取得単価を「いつ」計算するかにあります。 総平均法は期末にまとめて、移動平均法はリアルタイムで更新し続けます。この「計算タイミング」の違いが、納税計画や投資戦略に大きな差を生むのです。

■ 具体例で比較：年末の追加購入が与えるインパクト

言葉だけでは分かりにくいので、具体的な取引例で両者の違いを見てみましょう。特に、年末の追加購入が計算結果にどう影響するかが重要なポイントです。

【取引シナリオ】

• 1月10日：1 BTCを300万円で購入
• 5月15日：1 BTCを500万円で購入
• 9月20日：1 BTCを600万円で売却
• 12月1日：1 BTCを800万円で追加購入

この一連の取引の結果、所得はどのように変わるのでしょうか？

ご覧の通り、年末に高値で追加購入したことで、総平均法の所得は約66.7万円にまで圧縮されました。 一方、移動平均法の所得は200万円のままです。これは、総平均法では「期中に利益が確定したと思っていても、年末の取引次第で結果が覆る」という大きなリスクがあることを示しています。 納税資金を準備していたつもりが、全く計算が狂ってしまう可能性があるのです。

■ どちらを選ぶべき？投資スタイル別のおすすめ

どちらが絶対的に優れているというわけではなく、ご自身の投資スタイルに合わせて選ぶことが肝心です。

• 低頻度トレーダー・長期保有者の方：
  年に数回しか取引しないなら、計算が簡単な総平均法でも大きな問題はないかもしれません。 ただし、期中の損益が不明確である点は常に意識しておく必要があります。
• 高頻度トレーダー・アクティブな投資家の方：
  頻繁に売買するなら移動平均法が必須です。 リアルタイムで正確な損益を把握できるため、利益が出ているものと損失が出ているものを相殺する「損出し」のような高度な税務戦略も可能になります。
• DeFiやNFTを取引する方：
  取引回数が膨大になるため、どちらの方法でも損益計算ツールの利用が前提となります。 取引の経済実態を正確に追跡するという観点からは、移動平均法の方が論理的と言えるでしょう。

■ 最重要！評価方法の届出ルール

評価方法の選択は自由ですが、国税庁のルールに従う必要があります。ここが最も注意すべき点です。

• 何もしないと「総平均法」に：
  投資家が特に手続きをしない場合、評価方法は自動的に総平均法になります。
• 「移動平均法」は届出が必要：
  移動平均法を使いたい場合、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を、暗号資産を初めて取得した年の確定申告期限（原則3月15日）までに税務署へ提出しなければなりません。
• 変更は原則3年間できない：
  一度選んだ方法（何もしないで総平均法になった場合も含む）を変更するには、税務署長の承認が必要で、原則として3年間は同じ方法を継続しなければ変更は認められません。

つまり、最初の選択が非常に重要です。知識がないまま投資を始めてしまい、後から「移動平均法にしておけばよかった」と後悔しても、すぐには変更できないのです。